――毎日が下ネタ合戦!だけど…恋が始まった。
「おはよー、タカくん。今日も元気に朝勃ち?」
「ぶふっ……! な、なんでいきなりそんなこと言うんだよっ!」
教室に入ってわずか三秒。
隣の席のギャル、橘 ひかりの下ネタが今日も朝から絶好調だった。
「だって男子ってさぁ、朝は硬くなる生き物でしょ? それを元気っていうんじゃん?」
「ち、違ぇよ! てか声がデカい! 周りに聞こえるだろ!」
「えー? タカくん、もしかして今日は元気なかったの?」
「う、うるせぇ!」
顔が熱い。いやもう、耳まで赤くなってる自覚がある。
でも、そんな俺の反応を楽しそうに見てくるひかりは、悪びれるどころかニヤニヤが止まらない様子だ。
──彼女は俺の隣の席のギャル。そして、下ネタの天才だ。
ひかりと席が隣になったのは、二年生に進級した春のことだった。
明るい金髪、つけまつ毛、派手なネイル。いかにも「ギャル!」って感じの見た目で、正直最初は近寄りがたかった。
けど、初日の自己紹介で「趣味は下ネタ! 座右の銘は”下半身も人生も正直に!”」なんて言ったもんだから、クラス全員が沈黙した。俺は笑いを堪えるのに必死だったけど。
それ以来、なぜか気に入られたのか、ひかりは俺にやたら絡んでくる。
「タカくんって、絶対アレ弱いでしょ?」
「アレって何だよ!」
「アレはアレだよ、ほら、夜のアレ♡」
「やめろおおおおお!」
……まったく、落ち着かない毎日だ。
でも、ある日の放課後。
「ねぇ、タカくんって……彼女とかいたことあるの?」
「へっ……?」
それは、あまりにも意外な問いだった。
ひかりが、下ネタじゃなくて、ちゃんとした声で、普通のトーンでそんなことを聞いてくるなんて。
「な、ないよ。……そんな経験、俺には無縁っていうか」
「ふーん……。タカくん、意外と真面目だもんね」
ぽつりとつぶやいたその言葉には、どこか寂しさが混じっていた。
「え、ひかりは……?」
「アタシ? 一回だけあるけど、超つまんなかった。キスする時に“唇柔らかいね”って言われて、それ以外会話なし。マジで盛り下がったわ〜」
「そ、そうか……」
会話は一瞬途切れた。教室にはもう誰もいない。
でも、次の瞬間。
「タカくんって、キスしたことある?」
「うっ……!」
い、いきなりすぎる! これは下ネタなのか? それとも……?
「え、ないけど……」
「そっか」
ひかりは、ちょっとだけ微笑んで、俺のネクタイを指で引っ張った。
「じゃあ、練習する?」
「な、なに言ってんだよっ!」
「キスの」
「やっぱり下ネタじゃねーか!!」
「……ううん。今回は違う」
「…………は?」
ひかりの目が、本気だった。
からかいでもなく、悪ふざけでもない。
まっすぐな、その視線に――俺は、完全に撃ち抜かれた。
その日以来、ひかりの下ネタは、ほんの少しだけ減った。
いや、誤解しないでくれ。朝は普通に「おっはよ〜、今日もムラムラしてる?」とか言ってくる。
でも、それでも時々、本気っぽい言葉を混ぜてくるのだ。
「タカくん、アタシのこと、どんな女だと思ってる?」
「え……」
「いつもエロいことばっか言ってる、ただのビッチ?」
「ち、違うっ!」
気づけば、俺は強い声でそう否定していた。
「ひかりは……バカみたいに明るくて、下ネタばっか言ってるけど、本当はすっげぇ気を遣ってるし、誰よりも優しいと思う」
すると、ひかりは――
「……やっば、惚れるじゃん」
そう言って、今までで一番、可愛い笑顔を見せてくれた。
夏の終わり、俺たちは正式に付き合うことになった。
相変わらずひかりは下ネタを飛ばしまくるし、俺はそのたびに赤面してるけど。
でも、それでも――
「タカくん、今日の夜って……ヒマ?」
「ま、また下ネタかよっ!」
「……ううん、今日は普通に。ちゃんと、デートしよ?」
「……あ、ああ。いいよ」
「うふふ、でも油断してるとエロいこと言っちゃうかも♡」
「やっぱりかーーーっ!」
……俺の毎日は、今日もドタバタで、ちょっとエロくて、でも最高に楽しい。
だって――
隣の席のギャルは、俺の彼女になったんだから。
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